誰にとっても他人事でなかった日大アメフト部問題~集団と権力の下で自分を保てるか?

2018.05.28 (月)

 

 

アメリカンフットボールの試合で、日本大学の選手が関西学院大学の選手に背後からタックルをして負傷させた問題は連日報道で大きく取り上げられ話題となりました。

 

今回、これほど世間の大きな関心を呼んだ理由のひとつとして、この問題の本質が集団と権力の構造にあったことが言えるでしょう。人は誰もが何かしらの集団の権力者あるいはメンバーであり、今回の問題は誰にとっても他人事だと思えない部分があったのではないでしょうか。

 

すでに多くの批判がなされた今回の件について、改めて何が悪いという批判をしたいわけではありませんし、その判断は司法に任せるべきと思います。

 

ただ、集団と権力に働く影響力によって、誰もが本意でないことをしてしまう危険性について自覚し、自分としてどうすればよいかを考えることは必要なことではないでしょうか。集団と権力の下で自分を見失わないために、個人としてできることを考えてみたいと思います。

 

集団と権力の中で人はどうなるか

 

そもそも集団や権力の中では、人はどのような心理・行動に陥りやすいのでしょうか。その例についていくつか紹介します。

意に反した命令にも従いやすくなる(アイヒマン実験)

権力に服従する心理についての有名な実験に、ミルグラムのアイヒマン実験があります。

 

被験者を生徒役・教師役・監督者(権威者)役の3つの役割に分け(実際には生徒・監督者は実験の協力者であり、被験者は教師のみ)、監督者から教師に、生徒が課題を間違えると電気ショックを与えるよう指示します。

 

しかも間違えるたびに電圧を上げなければならず、そのたびに生徒の様子はぐったりしてきます。教師が罰を与えることを躊躇しても、監督者は「重要な実験だから」と言って実験を続行するように言い、取り合いません。すると、ためらいつつも最高水準の450ボルトまで電気ショックを与え続けた教師役が半数を超えたといいます。

 

権力の働く状況に置かれると、どんな人でも意に反した命令にしたがってしまう可能性があることを示す怖い実験です。

間違った選択に気付きにくくなる(集団思考・不敗幻想)

アメリカの社会心理学者ジャニスは、結束力の強い集団が意思決定する際、不合理で危険な判断をしやすくなる心理のことを集団思考と名付けました。集団になると、後になって冷静に考えれば明らかに間違いだと思える判断をしてしまう危険性があるのです。

 

とくに、集団思考でもっとも大きな影響をもつ力に「不敗幻想」があります。自分たちの集団こそナンバーワンであり、失敗するはずがないと信じる心理傾向です。この力が働くと、集団の中で異論を持つメンバーに同調の圧力がかかったり、異論を持つ張本人も「異論を持ってはいけないのでは」と思うようになったりします。結果、誰もNOと言わなくなり、不合理で危険な意思決定がなされやすくなります。

 

たとえば日大アメフト部は名門であり、今回の問題について一連の報道では「せっかく強いチームなのになぜ……」と嘆く声も聞かれました。しかし「自分たちは強い、負けない」という思いが、かえってチーム内のひずみについて誰も声を挙げられない原因にもなり得るといえます。

極端に走りやすくなる(集団極化・集合的無知)

有名な童話『裸の王様』のように、初めは「王様は裸だ」と思っても、周りに合わせて「王様は立派な服を着ている」と意見を変えてしまう現象があります。集団の中で自分だけが違う意見なのだと思い込み、全体として同調に走ることを集合的無知といいます。

 

また、集団で話し合うと優勢な意見に対する肯定的な態度が強まり、極端にそちらに傾く性質があります(集団極化)。

 

こうした力学によって、必ずしも多数のメンバーに支持されているわけではない意見が、あたかも支持されているような雰囲気になってしまう危険があります。

 

人はみな何らかの集団に属している以上、いつでもこのような心理状態に陥る危険性があると自覚することが大切です。

 

所属する集団は選べる

 

次に頭に入れておきたいのは、自分の意志で所属する集団はいつでも替われるという事実です。集団に疑問を持ったり、違和感を感じたらいつでも替わってよいのです。現在所属する集団を改革することも不可能ではないかもしれませんが、相当な労力と時間が必要な場合がほとんどでしょうから、自分が別の集団に移動する方が現実的といえます。

 

ただここで問題になるのは、今いる集団に見切りをつけたいと思っているのかどうか自分でも分からないことです。たとえば、転職するべきかしないべきか、離婚するべきかしないべきかは誰でも簡単には判断できないことでしょう。

 

そこには、損したくない、傷つきたくない、何が起こるか分からないから怖い……といったネガティブな感情が関係しています。このネガティブな感情を感じるのが嫌で、人はしばしば理屈をつけて、見切りをつけたい自分の本心をごまかそうとします。心理学で認知的不協和と呼ばれる現象です。

 

「他の会社に移ってもどうせそんなに給料は上がらない」「子どものことを考えたら離婚せずに我慢した方がマシかもしれない」といった考えです。

 

どうすればこのように本心をごまかさずに、集団に所属する自分を客観視できるでしょうか。以下、意識するポイントを3つにまとめました。

 

集団に所属する自分を客観的に見るには

1.ささいな違和感を無視しない

所属する集団に対して少しでも違和感を感じるなら、気のせいと片付けないようにしましょう。その違和感は、自分にとって譲れない重要な価値観と関係している可能性があります。ただし最初は違和感があっても、時間とともに感覚が麻痺してしまうこともあります。初めの感覚を見過ごさないように注意しましょう。

2.複数の集団に属する

一つの集団に依存していると、その集団の常識がすべてと思い込みやすくなります。なるべくいくつかの集団に属して、客観的な視点を保てるようにしましょう。

3.余白時間を設ける

毎日が忙しすぎて、自分について振り返る時間がないと思考停止しやすくなります。自分について振り返る余白の時間を持つと、ささいな違和感にも気付きやすくなるはずです。

 

 

集団や権力の構造の中では、誰でも本意でないことをしてしまう危険性があります。そうならないためには権力者がそうした力に配慮する必要があることは言うまでもありません。

 

しかし、メンバー個人レベルとしてできることもあります。集団・権力にどんな力があり、自分もその影響を受けているかもしれないことに自覚的になること。そこに気付くことができる自分を保つために、自分や所属する集団を客観視できる仕組みを整えておくこと。簡単なことではありませんが、こうした意識が必要ではないでしょうか。

 

 

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オンワードミッション川崎 代表/ライフコーチワールド(R)認定ライフコーチ/人目気にしいさん専門起業コーチ 1989年福岡県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部(社会学)卒業後、一部上場の証券会社で営業を経験するも、長時間労働と成績不振で精神的に自分を追いつめ退職。当時の自分を救いたい一心で心理学を勉強するうちにコーチングと出会い、2017年にライフコーチとして起業。現在、スモールビジネス立ち上げ期の自信や覚悟を支えるパーソナルコーチとして活動。半年以上継続したクライアントには、現在全国を回る講演家や経営コンサル等がいる。メディア掲載実績:『PHPスペシャル』2018年4月号・特集「「気にしない」自分になれるヒント」にてインタビュー記事掲載。

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