ダサい自分と向き合うのに必要なもの邪魔なもの

2018.05.02 (水)

 

『漫画 君たちはどう生きるか』(※1)といえば、ご存知の方は多いでしょう。昨年8月に出版され、2018年3月時点で累計発行部数が200万部を超えたベストセラー本です。1937年に吉野源三郎さんが著した小説を漫画化したもので、主人公が友人のいじめを通して、人間としてのあり方を考えるという内容です。

 

この書籍とのコラボ企画で、女性誌の『anan』も「君たちはどう生きるか」という特集を組みました。冒頭では『確固たる”軸”を定め、より豊かに生きるには一体何が必要か、あらためて考えてみました』(※2)と、今回の企画の趣旨が説明されています。

 

私は「ライフコーチ」という仕事をしています。一言でいえば、クライアントの生き方の軸を、クライアントと共に発見する仕事です。よって「生き方の軸を定める」という難しい問いを、書籍よりも比較的ラフに読める雑誌でどのように扱っているのか気になり読みました。

 

今回の特集を読んで、「生き方の軸を定める」のに必要なものと、反対に足かせになるものとについて改めて考えさせられました。

 

「生き方の軸を定める」のにスキルは必要か

 

今回の特集は、「人生を考える本」「人間関係」「折れない心」「話術」「サバイバル」という5つのパートで構成されています。このうち、「人生を考える本」以外は主にスキルについての企画でした。

 

たとえば、「人間関係」のパートは「職場でのコミュニケーション術」について書いています。小見出しには『職場で好かれるのは素直で頼り上手な人』(※3)とあります。また「話術」のパートでは、『人を楽しませて自分を印象づけ、伝え上手になれる』(※4)として会話のコツを紹介しています。両方とも「人に好印象を与えるコミュニケーション術」についての企画といえます。

 

一方、「折れない心」のパートでは「レジリエンス(心理学的な意味では”落ち込みから回復する力”)」を取り上げています。「サバイバル」のパートでは、仕事や恋愛の窮地から脱するサバイバル術を扱っています。これらの企画はどちらも、「落ち込みからの復帰力」がテーマといえます。

 

「人に好印象を与えるコミュニケーション術」と「落ち込みからの復帰力」。たしかに、どちらも生きていくのに重要なスキルではあると思います。しかし、今回の企画趣旨である「生き方の軸を定める」ことにとっては二次的な部分だと感じました。

 

ダサくてしょうもない今の自分をよく見る

 

「生き方の軸」とはつまるところ、個人の人生における目的意識と、それを達成する思考・行動の選択基準のことだと私は考えています。

 

たとえば、「私は人に感動を与える人間でありたい(目的)、そのために、人が少しでも喜ぶことは何かと考え(思考)、友人へのお礼にちょっとしたサプライズのプレゼントを送る(行動)」といったようなことです。逆に、目的に合わない思考や行動はしないと決めることでもあります。

 

それを明確にするためには、まずは自分の内面に意識を向ける必要があります。他人にとって重要なものではなく、私にとって重要だと感じること=「価値観」を掘り起こす作業なのです。

 

コミュニケーションを身につけて人から好かれる魅力的な人物になろうとか、ストレスフルな状況を切り抜けられるタフな人物になろうとか、何かに「なろう」とするのはその後でもよいのです。

 

「軸を定める」ためには、とにもかくにも「今ここにいる」自分と向き合うことが求められます。それはもしかしたら、目も当てられないようなダサくてしょうもない自分かもしれませんが、とにもかくにもそこからしかスタートすることができないのです。

 

早くその作業をやってみなければ、そもそも何に「なろう」とすればいいのかも分からないのではないでしょうか。

 

嫌われて落ち込む覚悟はあるか

 

そればかりではありません。実は前述したような「人に好印象を与えるコミュニケーション術」、「落ち込みからの復帰力」が、「軸を定める」のにとってはむしろ足かせになるかもしれません。

 

「人に好印象を与えるコミュニケーション術」や「落ち込みからの復帰力」といった情報を求める心の背景には、「人から嫌われたくない」とか「なるべく落ち込みたくない」という思いがある場合も考えられます。

 

健康や恋人など、失って初めて、自分にとってそれがいかに大事だったかということに気づくという話はよく聞きますよね。自分にとって何が大事かを知るには、むしろ嫌われたり、十分に落ち込んだりすることが大きなきっかけになることも多いのです。

 

また、嫌われたり落ち込んだりすることを恐れて積極的な行動を抑えてしまう可能性もあります。たしかに失敗することは少なくなるかもしれませんが、それと同じだけ新しい価値観と出会うチャンスを逃してしまうおそれがあります。

 

スキルを身につけたり傷つくのを避けようとしたりするのを否定するつもりはありません。しかし、その行動が自分の目的地へとつながっているのか?そもそも自分の目的地はどこなのか?といったことが意外に意識されていないケースも多いのではないでしょうか。

 

Open Heart Question
人とぶつかってでも大事にしたい価値観はなんですか?

 

【引用文献】
※1:『漫画 君たちはどう生きるか』(吉野源三郎・芳賀翔一、2017、マガジンハウス)
※2・※3・※4:『anan 2018年3月7日号 No.2092 – 君たちはどう生きるか』(2018、マガジンハウス)

 

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オンワードミッション川崎 代表/ライフコーチワールド(R)認定ライフコーチ/人目気にしいさん専門起業コーチ 1989年福岡県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部(社会学)卒業後、一部上場の証券会社で営業を経験するも、長時間労働と成績不振で精神的に自分を追いつめ退職。当時の自分を救いたい一心で心理学を勉強するうちにコーチングと出会い、2017年にライフコーチとして起業。現在、スモールビジネス立ち上げ期の自信や覚悟を支えるパーソナルコーチとして活動。半年以上継続したクライアントには、現在全国を回る講演家や経営コンサル等がいる。メディア掲載実績:『PHPスペシャル』2018年4月号・特集「「気にしない」自分になれるヒント」にてインタビュー記事掲載。

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